異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「それは、セリナ様がセイレム王国にいらっしゃるからだ」
その声にハッと我にかえれば、あたしはバルドに抱きしめられたままで。いつの間にかハルトが膝を着いてこちらへ頭を下げた。
「秋月 和様。芹菜様が正式なご招待をあなたへなされました」
ハルトは懐から取り出した封筒を恭しくこちらへ差し出す。
「芹菜が……あたしをセイレム王国へ招待? いったいなんの冗談」
やっとバルドの腕から解放されたあたしは、封筒を受け取って眺める。
綺麗な飾り文字らしいけど、セイレム王国の文字なのか全然読めない。だけど……
隅にあったたった一文字のサインが、あたしの胸を強く打つ。これは……この筆跡は。
震える指で封筒を開けようとしたら、うまく開けられない。それを見かねたのか、バルドが封を開いて紙を取り出してくれた。
「あ……ありがとう」
意外な気遣いに少しだけ気分が落ち着いて、さらに息を吐いた。上質な和紙にしたためられた文字は……あたしでも読める日本語で。
それは、完全に見慣れたものだった。