異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「それならば、自分の目で確かめるしかないだろう」
「バルド……でも、あたしは」
水無瀬の巫女ということで、諸国から狙われる立場なのに。芹菜がいるとしても、セイレム王国に行っていいの? とも思う。
それに、自分だけで異国に行かなければならないのは心細い。きっとロゼッタさんやレヤーは着いてきてくれるだろうけど。仮初めとはいえ、皇子の婚約者としては他国へ気軽に行っていいのかな?
「あの……バルド。やっぱり婚約は……取り消さないと。あたしが他国に行ってトラブルがあった時、バルドに迷惑がかかるよ」
「それくらい、どうした」
バルドはあたしの心配をバッサリと切って捨てる。
「オレが行くのだから、余計な心配はしなくていい」
「えっ……」
軽い驚きとともに目をぱちぱちと瞬いて、思わずバルドをまじまじと見た。
「バルド……セイレム王国に行くの?」
「皇子とその婚約者ならば、あちらも粗略には扱えないだろう」
「そ、そうだけど……仕事が大変な時じゃないの?」
あれだけ大量の書類に囲まれて寝食も忘れて仕事をしてるのに、そんなに疎かにできるものなの? という疑問は、バルドに一蹴された。
「セイレム王国とは最近外交が上手くいっていなかったからな。訪問時期としてはまずまずだろう」
バルドはちゃっかり目的を定めて、侍従長のヒルトさんに伝えたけど。彼がげっそりと疲れた顔になったのは気のせいじゃない。
とにかく。
翌朝あたしは、セイレム王国へと出発した。
唯一の友達に会うために。
そこに、どんな運命が待ち受けているかを今は知らずに――。