異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「お騒がせしてごめんなさい」
女の子は猫ともどもペコリと頭を下げたけど、口から出してるのは流暢な日本語。黒髪と焦げ茶色の瞳に、長年馴染んだ黄色い肌。東方の人特有の容貌は懐かしくて、ついつい話しかけてた。
「あ、あの……日本語、話せるんですか?」
「あ、はい。そういえばあなたも日本語を?」
もがく猫を宥めながら女の子もこちらを見たけど、何か感じるものがあったのか、少しだけ驚いたように目が見開かれた。
あれ? 何だか彼女の様子がおかしい。抱き上げていた猫が逃げるのも構わず、呆然と立ってる。そのうちにぶるぶると震えだして、なんだか泣きそうなくらいに顔が歪んだ。
え、なに。もしかしてあたしのせいで泣かせた?
別に意地悪した覚えはないんですけど。
ただ日本語について訊いただけだよね? それだけで普通泣きますか!?
王宮に隣接した迎賓館。ここでドレス姿で現れる女性ならば、身分がそれなりに高いということ。王族や高い身分の貴族、もしくは外交官の身内。
(やばいです……もしかして着いて早々国際問題発生ですか)
ドキドキしながらも傍観してる訳にはいかなくて、どうにかしないと。と焦りながら話しかけようとした。
あたしは偽物でもバルドの婚約者。第一皇子のフィアンセなら、それなりのきちんとした対応をしないと。バルドだけじゃなく、ディアン帝国自体の評判を落としかねない。
よし、と意を決して口を開いた。
「あ、あの……」