異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
すごく、すご~く勇気を振り絞って話しかけようとしたのだけど。突然、女の子に両手をガシッと掴まれましたよ。
そして、穴が開きそうなくらいにじいいっ……と顔を見られました。いや、そんなに見られるような価値があるシロモノではありませんがね。
というか……なんか、目が血走ってませんかこの女の子。しかも、ビミョーに鼻息が荒いような。
しかも、いでででっ! 痛い。掴まれた手が痛い! なんでそんなに力が入るんですか。
「あ、あの!」
冗談抜きで骨がミシミシ言い出したから、離してくれ! って意味で声を張り上げたら、やっと我に返ってくれたようで。ばつが悪そうな顔で手を離してくれた。
折れなくてよかった、あたしの指。
「ごめんなさい。もしかして同郷の人かと思ってつい」
女の子はそう話しつつ、あらごめんなさいと口元を拭う。ヨダレまで出てましたか……。
そこで、同郷という発言に首を傾げた。
この異世界に来てから日本語を話す人が多いから、日本語を話せる=日本人って図式は成り立たない。実際あたしが会話に困ることは少ないし。
ディアン帝国やセイレム王国の王族と貴族に話せる人は多い。だから、それだけでこの女の子が日本人と判断出来るかと言われれば、正直わからない。
こちらへ来てからディアン帝国の人種の多彩さはたくさん見てきたし、彼女のような東洋系の人間ももちろんいる。だから、彼女に自分が日本人と明かすにはリスクがある。
第一、相手の正体も知らないのにほいほい教えるわけにはいかない。水無瀬の巫女であることは隠しているんだから。