異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「あの、申し訳ありませんけど。あなたはどちらの」
「あ、ごめんなさい。興奮してしまって」
女の子はあたしから少しだけ離れると、ドレスの両端を軽く摘まんで優雅にお辞儀をした。
「はじめまして。わたくしはセイレスティア王国のティオンバルト王太子殿下の妃であるユズと申します」
「王太子妃殿下でしたか。これは失礼いたしました。わたしはディアン帝国第一皇子の婚約者であるナゴムです」
王太子妃殿下!思った以上の高い身分に大慌てで彼女に倣い、ドレスを摘まんでお辞儀を返した。彼女ほど完璧にできたとは思えないけど。
だけど、あれ?国名とともに、どこかで聞いたことがある名前だよね。えっと……いつ聞いたんだろ。
一生懸命に思い出していると、近衛兵が一人こちらへ駆け寄ってきた。こちらの随身が少なすぎるから、セリス王子が派遣してくれたセイレム王国の騎士だ。
「失礼します! セイレスティア王国より、こちらへ妃殿下がお越しでないかとの問い合わせがございましたが」
きっちりとした敬礼で伝言を伝えてくれた騎士は、ユズさんを見て一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに表情を引き締めた。うん、さすがに訓練された武人は違うわ。
「あらら、ライベルトが顔色なくしちゃったかな」
苦笑いをしたユズさんは近衛兵に何かを短く言付けしてもらうと、肩越しにこちらを見た。