異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
セイレム王国は日本の気候に似ている。今は秋に近い夏の終わりだけど、爽やかな風が吹いて蒸し暑くはない。ちょうど5月の一番いい時期みたい。
あちこちで蝶が飛び小鳥が唄うのどかな庭園で、同じ出身の女の子と異世界でお茶をする。考えてみれば奇妙なものだけど、なかなかある機会じゃないわね。
「わっ……この大福美味しい!ホイップクリームの中にあるベリーソースが絶品だわ」
「そうでしょう、そうでしょう。そのスイーツはイチオシなんですよ~」
甘いものは人を笑顔にするし、幸せにもする。ユズさんはレヤーの並べたコンビニスイーツに、パアッと明るい笑顔になった。
「ホント! 家の近くのコンビニにはよく行ってたんだ。たまにスイーツチェックしてたな~」
向かい側に座るユズさんの話に、わかるわかるとうなずいた。
「そうそう! コンビニのオリジナル商品って案外バカにできないんだよね。あたしはパスタとかパンが好きだから、よくチェックするよ。クルミパンが特に」
「え~! それならフ○ミマのクルミパンがイチオシ。あのもっちり具合がたまりませんわ」
「やっぱりそれがベストかな?」
やっぱりクルミパンのベストはあれだね、とうなずきあう。となれば、レヤーがどうぞとクルミパンを差し出してきた。
「私も食べたかったんで、たまたまですが買っておきました」
「え、いいの? やった! 夜にでも食べるね」
袋を持って喜ぶ様子は、どう見ても年相応の女の子で。たったひとつのパンで喜ぶ普通の女の子が、どれだけ無理をして王太子妃を演じてるのかな……って胸が痛くなった。