異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「ハロルド、あなたはまた政務から抜け出してきたのですか?」
セリナが眉をひそめながら、咎めるような声を夫に向ける。その様子から、国王陛下はわりとしょっちゅう仕事からエスケープしてるのかもしれない。
「うん、だってこんなにいい天気なのに。むさ苦しい男たちに囲まれるより、君に逢いたくてね。愛しい僕のフルール」
ハロルド国王陛下はセリナの手を取ると、その指に口づけて微笑むけど。その笑みは……完全に甘ったるい、最愛の人に向けられるもの。
そのまま彼の指はセリナの髪の毛に触れ、ゆったりとほつれた毛を撫でながら額に口づける。
「まったく、君がそばにいないと僕は半分の力も出せない。5分に1度は顔を見せておくれ」
「……ハロルド、場所をわきまえて。お客さまがお困りでいらっしゃるではないですか」
「ああ、すまない。皆、気にしないで話していなさい。私も皆を気にしないから」
こちらを見もせずにおっしゃいました国王陛下は、セリナの肩を抱き寄せて……ててテ手テ。
セリナがデコピンしてたから阻止されたけど……国王陛下。あなた、こんな公衆の面前でキスしようとしませんでした?
しかも、懲りずにセリナに触れてるし。甘さダダ漏れなその砂糖を吐きそうなピンクの空気が……今ならば、苦手なブラックコーヒーが何杯でも飲める自信がありますよ。