異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「もう、ハロルド! いい加減になさって」


セリナに本格的に叱られた国王陛下は、しゅんと子犬のように縮んでましたよ。


これはどう見ても国王陛下とセリナは相思相愛の、デロデロラブラブな溺愛コースですよね?


セリスなんて大きな息子がいるのに、この年でもそこまで仲がいいなんて。羨ましいけど大変そう。


「ごめんなさいね、本当に。ハロルドがわがままで困るわ」


眉尻を下げながら謝るセリナだけど、心底嫌だって雰囲気じゃない。むしろ、幸せそうに見える。


そりゃそうだよね。今のセリナは国王陛下にこれだけ愛されて、立派な跡継ぎも生んで、王妃としての務めを果たしてる。


“私は今、幸せよ。だから、心配しないで”


そんなセリナの音のない声が、あたしには聞こえた気がした。


そっか……


セリナはもう、これが彼女の人生なんだね。


セイレム王国の王妃で、ハロルド国王陛下の妻で、セリス王子の母親で。


25年という動かしがたい時間が、この確固たる現実を築き上げさせた。


あたしと二度と交わることがない道を、セリナはもう歩んでる。


現実を受け入れてたゆみない努力をしたから、こうして幸せと微笑むことができたんだ。


本当に、大切なひとと居場所を見つけて。


そこに、あたしの介入できる隙間は、ない。


驚くほどストン、と胸の中にその現実が落ちてきた。


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