異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。





「……疲れた」


あたしがぐったりとソファに沈み込んだとしても、誰も責められないよね。


日本にいた時でさえラブラブカップルには近づかないようにしてたのに……いろんな意味でぼっちには毒で、ガリガリ精神力が削られましたよ。


「……帰りたい」

『ナゴム様! 淑女が昼間からそのようにだらしなくなさらないでください!』


ミス・フレイルのキンキン声が耳を突き抜けて、更にげんなりする。彼女はいつも通りに紺色のカッチリした服を着て、一筋の乱れもない纏めた髪で。ノンフレームのメガネをギラリと輝かせる。


『今夜は国王夫妻主催の歓迎パーティーがございます。
当然、ナゴム様もバルド殿下のフィアンセとしてご出席頂きます』


そういえば、ハロルド国王陛下がそんなお話をされてたような……彼の発言の9割がセリナへの愛の言葉だったから、ほとんど右から左へ聞き流してたけど。


「……って、パーティー?」

『そうです! 今から急いで準備せねば間に合いませんわ。さあ、ナゴム様。まずはお風呂で体を磨きましょう』


ミス・フレイルがチラッと目配せすると、いつの間に控えていたのか数人の侍女が進み出てきた。


たぶん、セイレム王国の侍女だろう。またセリス王子が気を利かせてくれたらしいけど……あたしは顔がひきつるのを感じた。


「あ……あの、大丈夫! このドレスと髪で充分だから。ミス・フレイルも旅で疲れてるでしょ? 休憩……そう。あなたは体を休めて! 心配しなくても……」

『わたくしの疲れなど些末なこと。それより……お覚悟なさってください。ディアン帝国皇后の代理として相応の格好をなさっていただきます!』


ミス・フレイルのギラリと光る眼光から、逃れられないと悟った午後でした。


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