異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
《そういえば、バルドはエスコートする相手がいるみたいだな》
「え?」
ず~んと落ち込んでいるところに、ヒスイが何気なく話題に出したのがそれ。
「え、どういうこと? 一応フィアンセなら、パーティーであたしをエスコートするものじゃないの?」
《普通はそういうものらしいが、バルドはいろいろ変わっておるからな》
この茶は美味いな、と上機嫌でヒスイはティーカップを傾ける。
「それ、どこで聴いてきたの?」
《おしゃべりスズメはどこにでもおるからな。わらわがその気になれば、この宮殿内の全てを把握するなど容易いことじゃ》
ヒスイのすごさは散々知ってるから、それに関してはそうとしか思えなかったけど。聞き捨てならないのは、バルドの気持ちだ。
彼は、どういうつもりであたしでなく別の人をパートナーに選んだんだろう? 第一皇子という立場上、フィアンセを差し置いて選ぶなんて。どう考えてもあり得ない。
悔しいだとかでなく、純粋に不思議に思ったんだけど。
《それだがな。どうやらハルバード公爵夫人がこのセイレム王国の別荘に静養に来ていた縁で招待されたゆえらしい》
「ハルバード公爵夫人?」
聞き覚えがある名前だった。たしか何代か前が皇帝の皇子で、臣籍降下して出来た大貴族だって。
たしか、今の当主はセオドア·ディ·ハルバード公爵。25歳だったっけ。
あれ、でも待って。
「いくら公爵夫人でも、バルドがエスコートするのはおかしくない? 普通は夫がいないなら、侍従とかが務めるでしょ」