異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
あたしが訊いても、ヒスイはすぐには答えない。ナッツが入ったマフィンをはぐはぐと頬張っている。
「ちょっと、ヒスイ!」
数分待っても答えないヒスイに焦れて声を張り上げれば、彼女は半目であたしを見た。
《騒がしいのう。まったく、少しは待てんのか》
「一番知りたいところであなたが焦らすからでしょ。で、バルドがなんでそのハルバード公爵夫人をエスコートするの?」
よほどの理由がない限りでは納得できないし、外聞も良くないだろう。バルドの評判だって悪くなる。そう思ってたんだけど。
《例の、幼なじみじゃよ》
「は?」
ヒスイの言い方は象徴的過ぎる。誰が誰の? と苛立つ前に、ヒスイはティーカップを置いてイチゴのタルトを手に取る。
《バルドには幼なじみがおったじゃろう。今の公爵ともう一人が》
「幼なじみ……あっ!」
そういえば、バルドの添い寝をした時に聞かされた。幼なじみの公爵と、最愛の女性の話を。
あの時、何もかもあきらめた風だった彼に胸を痛めて、彼女の気持ちを確かめてみなさいとけしかけたのはあたしだ。
アイカ……たしか、そんな名前だった。
バルドは“そうだな”って返事をしたっけ。
そっか……
バルド、やっと行動を起こす気になったんだね。
最愛の幼なじみの女性が夫を伴わずパーティーに参加するなら、幼なじみで親友としてエスコートするのは不自然じゃない……のかな? その辺りはまだよくわからないけど。
「そっかぁ……よかった。バルド、やっと告る気になったんだね」
あたしは、よかったと無理に笑おうとした。胸の痛みや軋みに見てみぬふりをしながら。