異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
セリス王子はいつもの長い銀色の髪を腰辺りで緩く束ね、赤いマントを肩に掛けた白い軍服姿。挨拶のためか、指先に唇が触れてドキッと胸が高鳴る。
いつものことだけど、仕草のひとつひとつが優雅で品を感じる。ガサツなあたしと大違いだ。
でも、どうして? セリスは第一王子で、婚約者どころか妃がいてもおかしくない年齢。エスコートなら、そういった人へ申し込むべきじゃないかな。
第一、あたしは他国の皇子の婚約者だ。そんな女と王子が連れ立って行動なんて、要らない憶測を呼んでスキャンダルにならないの?
「あ、あの……セリス王子。あなたには他に誘うべき女性がいるんじゃ」
「あいにく、わたくしには妃もフィアンセもいませんので」
あたしが全部を言い終わる前に、セリス王子は言葉を重ねてきた。
「けど……あ、あたしは一応、バルドの婚約者で……」
「本気では、ないのでしょう?」
セリス王子はあたしを見上げたまま、にっこりと極上の笑顔を見せる。
「婚約した割には、あなた方に距離を感じるのですが。わたくしの気のせいでしょうか?」
「えっ……と」
セリス王子にズバッと現実を指摘されて、図星なだけに何も言い返せない。