異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「そんなに必死にならなくても、あなたに合わせますから大丈夫です。ゆっくりと小さな歩幅で歩いてください」

「……はい」


うぎゃ~! 慣れてないのバレバレでしたか。セリス王子は口元を笑みの形にして、あたしにアドバイスをくださいました。やっぱり解るんですね、しくしく。


セリス王子の言う通りに歩幅を小さくしてゆっくり歩く。なるほど、少しだけマシになった。ほらね、と言いたげなセリス王子の視線に。恥ずかしくて何も言えない。


絶対、羞恥心で顔が赤くなってる。セリス王子のさりげない優しさも、何だか胸を騒がす原因になるし。


(まだあたしは、セリス王子に気持ちが残ってるのかな?)


この世界に来て初めて優しくしてもらえた相手だから、雛みたいに刷り込みで淡い想いを抱いたのかがわからない。


けど、今はっきりとわかっていることは。


セリス王子に微笑まれると、胸がざわめくことだけ。


親友のセリナに似た表情だけど、それだけじゃない。彼の思いやりを知ってる。その穏やかさも優しさも偽物じゃないって知ってるから。だから、慣れないそういった感情を向けられると、落ち着かないし胸が高鳴る。


「セリス王子殿下ご入来です!」


セリス王子の来場を知らせる係の声が、ホール全体に響き渡った。


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