異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



あたしとティオンバルト王太子殿下が挨拶を交わしている間、当然セリス王子とユズも挨拶をかわす。短めだけど話もしたようで、ユズが笑った――途端に背筋に寒気が走る。


え、おかしいな。セイレム王国はまだ秋なのに。なんて振り返って――即座に後悔した。


ティオンバルト王太子殿下……微笑んでます。すっごく優しく笑ってますけど……目の奥が笑ってませんし。凍てつきそうな絶対零度の視線がユズに向かってますよ。


「ユズ、そろそろ国王陛下夫妻がお越しになるから挨拶に行こうか」


ガシッと音が立ちそうなほどしっかりと、ユズの腰に手を回してがっちりホールドしてますよ。


「え、でも。まだご飯食べ始めたばかりでしょ」

「そうそう、化粧も落ちてる。国王陛下夫妻に会う前に直そうか? たっぷり時間をかけて……ね」


ね、の部分でゾクッと背筋が震えたのはあたしだけでしょうか? ユズはきょとんした顔で、なんで王太子がそんなことを言い出したのか解っていなさそうなまま、王太子殿下に強引に連れ去られた。


あれ……絶対普通に化粧直しじゃ済まないだろうね。気の毒というかうらやましいというか。


南無~と内心でユズの身の無事を祈った。せめて一時間以内に帰ってこられるといいけどね。


でも、結局。


2人は帰ってきませんでした。その上ユズは迎賓館に戻されたらしい。理由は“急な体調不良”とのこと。南無南無~。


< 328 / 877 >

この作品をシェア

pagetop