異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
やれやれ、と2人が退出した後に肩をすくめていると。急に会場がざわめきに包まれた。
『あのお美しい女性はいったいどなただ?』
『みたことのあるお顔ではありませんわね』
『けど、ディアン帝国のバルド殿下にエスコートされているならどこぞの令嬢ではありませんか?』
バルドの名前を耳にした瞬間、ドクン、と心臓が嫌な音を立てる。
ユズにかけて貰った言霊のお陰でセイレム王国の言葉がわかるのは、よかったのかな?
決して、来てほしくなかった瞬間が訪れたのだと知って。
わからなければ、知らないふりも出来たのに。
でも……
(逃げちゃ、ダメだよ。現実をちゃんと見て知らなきゃ。どんなに見たくなくても……)
自分にある勇気をかき集め、奮い立たせる。すると、セリス王子がそっと肩に手を置いてきた。
「大丈夫ですか? 震えているようですが」
「だ、大丈夫ですって。あたしはいつでも元気です。ほら、至って平気!」
余計な心配をかけたくなくて、お皿にあるお料理をパクパクと食べる。正直味なんてわからなかったけど、空元気を維持するには仕方ない。
「ほら、あたしは平気ですって。次は何を食べようかな~」
セリス王子から離れるためにうろつくふりをしながら、チラッとその中心に目をやると。会場の注目を集めた2人の姿が目に焼き付いた。