異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
バルドは皇子としての正装で、詰襟の黒い軍服を着て白いマントを肩に掛けてる。肩から腰にかけてある青いタスキみたいなものは初めて見た。
黒い髪はきちんと整えられていて、鋭い眼光も変わらずに高貴な生まれとわかるオーラを放ってる。いつもあれだけきちんとしていればいいのにな、なんて暴れる心臓を押さえながら思う。
そして――バルドの腕を取ってともに歩いてきたのが、一目で貴族の女性と判る美女。身長はたぶん、150センチあるかないかだろう。華奢で小柄な体を包むのは、白がベースで赤や金色の刺繍を施したシンプルなデザインのドレス。
けど、そのシンプルさがかえって彼女の愛らしさと美しさを引き立ててる。緩く編んで波うつ金髪はシャンデリアの輝きにいっそう映えるし、澄んだ青色の瞳は理知的に見える。白い肌に傷やしみ一つなくて、顔に似合わない見事な体はゆったりしたドレスでも隠しきれてない。
そして……彼女、アイカさんを見るバルドの目は、今まで見たことがないほど優しげなもの。バルドが微笑むなんて……初めて知った。
さりげないエスコートも完璧だし、随所で細かな気配りを見せてる。言葉もなく物だけ寄越されたあたしとは大違いだ。
仲睦まじい様子を歯噛みしながら見ていると、セリス王子があたしの肩をトンと叩く。気がつくと、2人が近くまで歩いてきてるのに気づいて慌てた。
(まさか……こちらへ来るなんて)
予想外の出来事に半ばパニック状態で狼狽えているうちに、あっけなく幕切れを迎える。
スッ、と。バルドもアイカさんもこちらを見もせずに通り過ぎていったから。
2人は、あたしのことなんて目に入らないくらいお互いの世界に入り込んでたんだ。