異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「あ……あれ?」
頬を伝う暖かいものに気づいて、慌てて目元を押さえる。泣いてるなんて、気づかれちゃダメだ。叫びたくなりそうな胸の痛みも、軋みを上げる感情も何もかも。
「す、すみません……人混みに酔ったみたいですから。ちょっと外の空気を吸ってきますね」
「和さん!」
「ナゴム!」
愛想笑いをするのも無理で、お皿をセリス王子に押し付けるとその場を駆け出した。その時ちょうど挨拶に訪れた貴族がいたみたいで、彼の足留めをする形になる。
自分も挨拶しなきゃと思うのに、きっとぐちゃぐちゃになってるだろう顔を向けたくない。ただうつむいて、その場を足早に去るしかなかった。
追いかけてきた護衛のロゼッタさんを途中で見失うように撒いて、侍女長のミス・フレイルの目も何とか抜け出す。
何とかバルコニーから庭園へ抜け出した時、誤って何かにつまづき派手に倒れた。ちょうど灌木の間だから、姿が隠れたのだと思う。そのまま倒れこんでいても、誰も助けに来なかった。
「は……は、あたしって……本当に、バカだ……」
うつ伏せに倒れたまま、乾いた笑い声を上げる。虚しい気持ちを誤魔化すように、何度も何度も。
同時に、ぽろぽろと大粒の涙が頬を伝い地面に落ちる。
自分があまりに滑稽で。
自分があまりに惨めで。
自分があまりに愚かで。
――こんな時にハッキリと、自分の気持ちを自覚するなんて。
絶望的な、決して叶わない想いを。
「はは……あたしが……バルドを好きって……なんの冗談よ。絶対、絶対無理なのに……」
口にした瞬間、胸が詰まって余計に涙が落ちていく。
きっと、いくら涙を流したって、あたしの初めての恋が実ることはないのに。