異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「う、うん……」
いずれ会場には戻らなきゃいけないけど、またバルドとアイカさんの睦まじい様子を見せつけられるのが辛い。思い出すだけで胸がムカムカするのに。
あたしは……2人を目の前にしてもちゃんと笑えるのかな?
ううん、と首を小さく振る。
(できないじゃなくて、しなきゃいけないんだ。あたしはバルドの婚約者なのに、こうやって逃げてばかりでいいの? ううん、良くない。
バルドの評判を落とさないためにも、顔を上げ胸を張っていなきゃ)
いくら辛くても、自分で決めたんじゃない。偽の婚約者になるって。その決断は自分でちゃんと責任を持つ。いい加減な気持ちで選んだんじゃないなら、自分の全力で頑張るしかない。
「会場に、戻るわ。だから、この指輪を……」
「ダメ。俺の気持ちが籠ってるから、肌身離さずつけてて。その指輪はどんな方法を使っても物理的には抜けないからね」
「だから、受け取らないって言ってるでしょ!」
「もう着けちゃってるから、時効です。ほら、なんなら俺が支えるから手を……いたたっ!」
ふざけた発言をするカイルの手の甲を笑顔でつねり、彼が涙目になった隙に茂みの外に出た。