異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
パンパン、と手を叩く音が聞こえる。顔を上げれば、いつの間にか後ろにカイルが立ってた。
「さっすがセリスだね。あれだけひどく腫れてたのに、あっという間だ」
「カイル……やはりこれは、君だったのか」
セリス王子はあたしが持っていたハンカチを手に持つと、それを彼に向けて差し出した。
「セリス王子の知り合いですか?」
「セリスとは幼なじみみたいなもんだよ。魔法を学ぶために留学で魔法学園に叩き込まれたからさ。ガキの頃から仲良く遊んでた。もっともセリスはガキのくせに勉強ばっかでさ、一緒に遊んでたのはハルトの方だったけど」
「へえ……そうだったんだ」
たしかに、セリス王子とカイルの年は近い。セイレム王国は大陸一の魔法大国だから、北に位置するルーン王国と交流が盛んでもおかしくないよね。
「そ。幼なじみで学友。俺、セリスと同い年だからさ、何かと競ったりしたな~。ま、魔法の才能はすっからかんだったけど」
で。にひ、とカイルはあたしに向けて笑う。
「どう? 俺が王子って信じる気になった?」
「まぁ……ね」
そんな会話をしている間にも、カイルの侍従とおぼしき壮年男性が駆けつけてくる。
『カイル殿下! また姿が見えずに心配しましたぞ』
『大げさだなぁ。ちょっと散歩してただけだろ。ほら、セリスと話もしてただけだから』
ダシに使われたというのに、セリス王子は何も返さない。その沈黙が怖くて、あたしからは話しかけられなかった。