異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
本当に……?
セリス王子が、あたしを好き?
「う……嘘」
「嘘ではありません。わたくしだったら、何度でも伝えます。あなたが好きです、和さん。わたくしだったらあの方のように不安にさせません。泣かせたりもしません」
「セ、セリス王子……」
あの方って、いったい誰のこと? あたしを本気で好きな物好きなひとが、他にいるなんてあり得ない。
あたしからすれば、セリス王子が好きだと告白することもあり得ないけど。彼の熱の籠った揺れる眼差しを見れば、否定したり嘘だと誤魔化すこともできない。
「あ……あたしは」
「和、僕のことはセリスと呼んでください。王子としてでも、親友の息子でもなく。ただのセリスという一人の男として」
「……っ」
カイル王子の時の、比じゃない。セリス王子の告白は体が焼かれそうな熱に支配されて。頭がうまく働かない。
「もっと、もっとあなたを見てあなたのそばにいたい。誰よりもあなたの近くにいられる権利が欲しい。僕の願いはただそれだけです」
「セリス王子……」
彼の手があたしの頬を包み込み、指先がそこを撫でる。酔ったようなふわふわした気持ちで、体に力が入らない。
なのに――
「こっちですわ。こちらに綺麗な花が咲いてましてよ」
歌うような綺麗な声とともに、“彼女”がはしゃぎながら“彼”を引っ張って来てる。
――嘘、なんで?
どうして今、あなたが彼女とここに来るの?
その見慣れた黒い髪が視界に入った瞬間、全てが醒めて我に返る。
気のせいじゃない。彼の目が、こちらを向いて。視線が交わる。
「ば、バル……ッ」
彼の名前をすべて呼ぶ前に――あたしの唇を塞いだのは、セリス王子の唇で。
バルドとアイカさんの前という最悪な形で、あたしはセリス王子にキスをされた――。