異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
あたしはこんな臆病な手段でしか、バルドに想いを返せない。もっと勇気が持てたなら、あなたが大好きだと堂々と告げられる。追いかけていける。
でも……
あたしは、何もない。
アイカさんのような身分も、血筋も、美しさも、淑やかさも、教養も、後ろ楯も、それに伴う権力も。
故郷すら、この世界にはない。
――バルドの愛、だって。
最低限必要なそれすらないあたしは、本当ならバルドの婚約者なんて地位の資格すらない。巫女のことがあったとしても、ふさわしい女じゃないんだ。
あたしはフッ、と笑った。自分でも解るくらい、何かを悟った笑みだったと思う。
「……一度、承諾したからにはちゃんと“役割”は果たします。あなたがアイカさんと相思相愛になって、彼女を取り戻すまでは」
不思議なほどに、穏やかな気持ちになった。決定的な現実を見せられて、自分がすべきことが定まったからかもしれない。
「あなたが大切な人を取り戻せるまで、精一杯頑張ります。最低限ふさわしいように努力しますから」
あたしがそう告げると、バルドは初めて口を開く。
「……わかった」
何の抑揚もない、感情という温度が抜けた平坦な声。きっと、アイカさんがいるから無愛想にもなりきれないんだろうな。不器用な人だから、と笑えたのに。どうしてか涙で視界がにじんだ。