異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「いけませんわ!」
悲鳴のようなかん高い声で、アイカさんはバルドに詰め寄る。
「バルド、あなたは婚約者を大切にすべきです。わたくしはセオドアと結婚している身です。わたくしのために、婚約者をないがしろになんてなさらないでください! ひいては、セリス王子殿下にも失礼にあたりますわ!」
アイカさんは必死になってバルドを説得しようとしてくれている。なんて優しい人なんだろう、と思う。庶民のあたしがバルドの婚約者であっても、そんなふうに言ってくださるなんて。
やっぱり、バルドが惹かれるのもわかる。こんなに美しい上に思いやりあふれる優しいひとなら、みんなが好きになるはずだよ。最初から勝負にすらならない。
「バルド、考えなおして。わたくしのためにあなたの身に何かあったら……ああ、考えただけで恐ろしい!」
ふらり、と青くなったアイカさんの体が傾いだのに、なぜかバルドは何もしない。だから、あたしを離したセリス王子が急いで彼女を抱き留めたのは仕方ないことだった。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます……申し訳ありません、セリス王子殿下」
その時のアイカさんは恥ずかしそうに頬を染め、潤んだ瞳でセリス王子を見上げる。ギュッと彼の胸元を小さな手が握りしめた。
グロスを塗ったような艶やかな唇が、僅かに開いて吐息を漏らす。
「小さな頃から体が弱くて……これでもまだ丈夫になったんですの」
「そうですか……お気の毒に」
アイカさんは、セリス王子を見上げ弱々しく微笑んだけど。匂いたつ色香は隠しようもなかった。