異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



セリス王子のアイカさんを見る目は、心底彼女を案じるもので。他には慈しみを感じさせる優しい瞳。


アイカさんの背中に回された腕はゆっくりと彼女の体を叩いてる。まるで、「安心してください」とでも言いたげに。


それに安心したのか、アイカさんはセリス王子の胸に顔を凭れるだけじゃない。あからさまに顔を押し付けてた。


セリス王子の指が、アイカさんの髪に触れる。何だか胸が痛んで、思わず顔を逸らした。


(やっぱり……セリス王子だってアイカさんに惹かれるんだ。仕方ないよね、彼女はあんなに綺麗で魅力的だもん)


いじける暇があるなら、もっと有意義な時間の過ごし方を考える! もっとましな自分になれるよう、努力をしてからでないと。


それより、とあたしはバルドをキッと見据えた。大切な人が病気に苦しんでいるのに、彼は何一つ行動を起こしてない。本当に、最愛の人に対する態度なのか疑問ばっかだし。


「ちょっとバルド、あなたね……」


あたしがバルドを睨みながら彼の方へ意識が持っていかれた刹那。


セリス王子の唇から、なにかがこぼれ落ちた。




「――ずいぶん、安っぽく見られたものですね」




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