異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
ただの囁きのはずなのに、その声はやけにハッキリとあたしの耳に届いた。
セリス王子にしては冷たく硬質で、金属のように無機質な声音。心のどこかが、ひやりと縮むような。
チラリと見えた彼の唇の端が弧を描いたように見えたのは、あたしの気のせい?
瞬きをする間に、セリス王子はもとの穏やかな笑顔を顔に張り付けてた。
「やはり、こちらよりはお部屋で休まれた方がよろしいでしょう。水辺ですから夜風で体が冷えてしまいます。わたくしがお連れしますから」
セリス王子は優しく言うと、腰に下げていたベルを鳴らしてからアイカさんを抱き上げた。
程なく侍従や護衛が何人か駆けつけ、セリス王子がなにか指示を出すと慌てて宮殿へ走っていく。
「申し訳ありません。ご夫人の体調が思わしくないので、一度失礼させていただきます。和さん、また後でお話させてください」
「あ、はい。あたしは構いませんので、その方を早く休ませてあげてください。本当に体調が悪そうですから……大丈夫ですか?」
いくらお化粧をしていたとしても、顔が不自然なまでに真っ白に見えて。あたしはアイカさんに声を掛けてた。
「は、はい……ご心配をおかけしまして。ありがとうございます」
アイカさんは弱々しい微笑みを浮かべると、セリス王子の首に両手を巻きつけギュッとしがみつく。
「バルド……ごめんなさい、せっかくパートナーに選んで下さったのに役割を果たせなくて」