異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



消え入りそうな声で謝るアイカさんに、バルドは「いい」と素っ気なく返す。


「本当に体調が悪いなら、静養しておけ。倒れては元も子もないだろう」


そして、セリス王子に向けて頭こそ下げなかったけど。珍しく「アイカを頼む」と頼み込んだ。


「お任せください。客人の健康に配慮するのも、第一王子であるわたくしの役割ですから」


セリス王子はあたしに失礼しますと軽く頭を下げた後、アイカさんを抱いたまま水晶宮殿へ向けてゆっくりと歩いてく。たぶん彼女の体調に配慮してだろう。


あたしはアイカさんが心配でその後ろ姿を見送ってた。


セリス王子が体の向きを変えた瞬間、ちょうどアイカさんの顔が見えて。彼女がこちらを向いていたのだけど。


その目が――


あたしをハッキリと捉えたその目が、睨み付けるようなキツさと強さがあったのは。あたしの気のせい?


弱々しい笑みを見せていた人と同じとは信じられないくらい、眉と目がつり上がって、唇が細長くへの字を描いてる。


何より瞳に宿る揺らめく炎が、あたしの方へまっすぐに向けられていた。


憎しみ? 怒り? 彼女には無縁に思えるドロドロとした感情が、その中に内包されているようで。


あたしが呆然としている間に、セリス王子とともにアイカさんの姿が水晶宮殿へ消えていった。


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