異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



突然バルドはあたしの手首を掴むと、そのまま手を引いて歩き出した。


「ちょ……バルド!」


あたしは慌てて抵抗しようと両足を踏ん張るけど、元からの力と体格の差が歴然で。抗いきれずに体が前に倒れそうになった。


あたしが前のめりになりそうにもかかわらず、バルドはまったく足を緩める気配がない。だから、仕方なく足を踏み出して彼の後を歩いた。


「バルド、アイカさんのところへ行かなくていいの? 異国で体調不良なんて心細いでしょ! 不安にさせちゃダメだよ」


あたしは言葉を尽くしてバルドがアイカさんのもとへ行くように説得した。なのに、彼は黙々と歩くだけで一向に反応もしない。


喚きすぎて喉が痛くなった頃、バルドがあたしを連れてきたのは他でもないパーティー会場で。場内ではオーケストラが優雅な音を奏でてた。


「わあ……」


ダンスホールでもある会場の一部では、何組もの招待客が華やかなダンスを踊ってる。その様はさながら、春に咲き誇る花のよう。


色彩豊かなドレスがひらひらと舞う様は、見ているだけで綺麗で楽しい。


(いいなあ……あんなふうに踊れたら楽しいだろうな)


あたしもミス・フレイルの管理するスケジュールで、ダンスの基本は猛特訓した。けど、壊滅的に音感がないせいで散々なものでした。


だから、せめて壁の花になろうと密かに決意をしたんだけど。


まさか。


バルドがあたしを連れてダンスホールへ向かうなんて、思いもしませんでした。


< 366 / 877 >

この作品をシェア

pagetop