異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「ちょ……あたし、ダンス苦手なんだけど。ミス・フレイルから聞いてるでしょ」


ダンスの輪の中で悪目立ちする訳にもいかないから、なるべく声をひそめてバルドに抗議する。なのに、彼はあたしの背中に手を添え右手を持つホールドの姿勢を取ってくださいました。


「全てオレがリードする。何も心配せずに、ついてくればいい」

「ついてくれば……って、ひゃっ!」


ぎゃあ! と叫ばなかったあたしを、誰か褒めてください。


バルドが強引に踊り始めたこともだけど、彼と限りなく体が密着するなんて心臓に悪いシチュエーションに。よく持ったものだと思う。


指先が触れるだけでも、死にそうなくらいに恥ずかしいし嬉しいのに。体がほとんどぴったりくっつくなんて、どれだけあたしを早死にさせたいんだろう。


苦しい、けど。嬉しくて幸せだった。


きっと、バルドはあたしの気持ちなんて知らないし、気づきもしないだろうけど。それでいいんだ。


最初で最後の初恋は、彼が幸せになれば幸せに終われるから。


ただ臆病なだけのあたしは、きっと想いを口にすることはないけど。あたしがいなくなっても、ちょっとでもこんなヤツがいたな……って。たまにでも思い出してくれればいい。


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