異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
一度踊り始めたなら、曲が終わるまで続けないと目立ってしまう。そんな言い訳を自分にして、そっとバルドに体を寄せた。
きっと、彼と踊れる最初で最後の機会。なら、少しでもいい思い出になって欲しい。
ドレスアップしてお城で王子様と踊る。こんな素敵なシチュエーションは、日本へ帰ったなら絶対に無理だもんね。
それに、バルドにもちょっとでも女性らしいって思って欲しい。アイカさんほどには無理でも、せめて笑われない程度には。
ミス・フレイルに猛特訓された、ダンスの基本を思い出す。背筋をまっすぐに伸ばして、上体の姿勢をキープしながら優雅に、笑顔を忘れずに。リードに任せていてもステップを遅らせない。
正直、最初は必死だった。
だけど……
次第に自然と足がステップを踏み始める。
バルドのリードが巧みな上に、ごく自然にフロアークラフト(他人と衝突しないための技術)をこなすから、何の引っかかりもなくフロアーを流れていける。
ダンスがこんなにも楽しいものなんだ、って。 初めて知った。
5分間の曲が終わるころ、あたしは幸せでたまらなくて。ありがとう、とバルドにお礼を言って自分から離れようとした。