異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「和」
初めて、名前を呼ばれた。低い低い、囁き声で。
気のせい……だよね?
バルドが、あたしをそんなふうに呼ぶなんて。
うなじのほつれた遅れ毛を指先で弄ぶ彼は、そっと優しくキスをする。ただ強引でないそれに、あたしは呆然と彼を見た。
「……アイカのことは、気にするな」
「な……なんで? だって、あなたは」
「自分の気持ちは、ハッキリと伝えた」
「……!」
それはきっと、バルドが長年抱いてきた熱い想いのこと。やっと彼は、好きな人に伝えられたんだ。
だから。アイカさんは庭園であんなふうにバルドを説得しようとしたんだろう。
悲しいけれど、よかったと思う。バルドがちゃんと過去と向き合うきっかけができたなら。
「よ、よかったねバルド。もちろん、アイカさんは応えてくれるよね? 公爵夫人ならすぐ離婚は難しいかもしれないけど、1年2年くらいはあっという間だよ! おめでとう。その頃あたしはいないけど……バルドが幸せになっているといいね。うん!」
泣きたいけど、今はガマン! 誰もいない場所を見つけて思いっきり泣こう。そう算段をつけて、バルドから離れようとしたのに。
どうしてか、彼は離れるどころか体をより近づけてきた。