異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
バルドはあたしの顎を掴むと、そのまま顔を上げさせられた。逃れたくてうつむいてたのに。彼にみっともない自分を見せてしまう。だから、とっさに瞼をきつく閉じた。
「……なぜ、泣く?」
「……な、泣いてなんか……」
「嘘をつくな」
きっと瞼が腫れて目の廻りも鼻も赤い。誤魔化しきれない痕があるのに、あたしはあくまで認めたくなかった。
バルドのために涙を流した、だなんて。彼に知られたくなかったし、想いの欠片だけでもそうと解るのが怖かった。
あたしが意地を張ったところで、事態がよくなるとは思わないけど。勝手に好きになった想いを知られるよりは、意地っ張りのどうしようもない女と呆れられる方がましだから。
目元をバルドの指先がすべって、ひんやりとした感触に体が震える。
「目を、開けろ」
背中がヒヤリとするような低い声でバルドに命令されたけど、あたしは頭を左右に振って抗った。絶対、見せたくない。
すると、彼の指があたしの顎をがっしりと掴む。ある予感に戦いて体を引こうとしても、彼の腕があたしの体を捉えて離さない。
唇に柔らかい感触を感じればそれはすぐに重なり、あたしの息を奪うほどのバルドの激しいキスが始まった。