異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「……っ」
バルドには呼吸の仕方を教えられていたけど、そんな余裕もないほどに食らいつくされそうな、そんな激流のようなキスに翻弄される。
たまらずに涙がにじんでうっすらと瞼を開けば、すぐにバルドに顎を持ち上げられた。
「オレを、見ろ」
もう、逃げられない。諦めてゆっくりと瞼を開けば、バルドの黄金色の瞳と視線が重なりあう。
「なぜ、泣いた?」
やっぱり、逃がしてはくれない。諦め気味なあたしは数度瞬きをして、少しだけ。ほんの少しだけ笑った。
「……バルドに、言いたくないよ。だって、困るでしょ? あなたはアイカさんと相思相愛なんだから……あたしはお邪魔。なのに、どうしてバルドこそこんなことをするの?
あたしは偽物なんだよ。勘違いさせるようなことはダメだよ。あなたはこれからアイカさんと幸せにならなきゃいけないんだから」
あたしとバルドは何度もキスをして体を寄り添ってる。他人から見れば、恋人同士にしか見えないだろうな。
だけど、それは現実とは程遠い。あたしとバルドの間にあるのは、あくまでもあたしの一方通行の想いだけなんだから。
「あたしは言ったよね? ちゃんと役割は果たすって……だから。バルド、あなたはそこまで演技しなくていいの。そんな必要もない。キスも何もかも……するのはアイカさんにでしょ? 偽物にまで気を遣わなくていい。あたしはぜんぶ解ってるし、ちゃんと未練なくあなたと離れるから。安心して」