異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「言いたいことは、それだけか?」
なぜだろう?
いつも無表情で鉄面皮なバルドの眉が微かに寄って、唇もわずかに引き結ばれているのは。
ほんの、ささいな表情の変化。きっと気をつけて見てないと判らない程度の、感情の発露。
あたしが解ったのは、いつもいつも彼を見てたから。皮肉にも、彼を突き放すための場面で役に立った。
バルドだって、あたしはあくまで都合のいい隠れ蓑に過ぎなくて。アイカさんを得たなら役立たずになるはず。後は巫女として大して関わりを持たずに済む。
人間としても女としてもこんな出来損ないと関わらずに、せいせいするはず……だよね?
なのに、なぜだろう?
バルドが怒っているというか、不機嫌な感情を感じるのは。
あたしとバルドが離れるのは最初から解ってることで、予定調和だったはず。彼も承知の上で契約のように婚約者になった。
なのに、どうしてあなたが怒るの?
あたしはなにか変なことを言った?
気になって必死に思いだそうとするのに、バルドはそれを許してくれない。唐突に、彼はあたしの体を片手で抱き上げた。
「ちょ……バルド!」
あたしが下ろしてと喚いても、彼は大股でダンスホールを出て廊下の間へ向かった。