異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



バタン、とドアを片手で閉じたバルドは、あたしを抱えたまま奥の部屋へ向かう。


客室でもあるそこは、ベージュを基本にした落ち着いた雰囲気。木製の寝台を前にして、あたしをそこに下ろした。


すぐに腰を浮かせて立ち上がろうとすると、彼の手が肩を掴んでベッドに体を沈められる。勢い余ってこてん、と後ろ向きに倒れたあたしの体を、バルドの両腕が閉じ込める。


「……バルド、何のつもり?」


彼の意図がわからなくて、近づいた瞳を睨み付ける。両手首は彼の手に掴まれて、ベッドに固定されたまま。


「どうして、あたしを部屋に連れてくる必要があるの? こんなふうに2人きりで部屋に入ったら要らない誤解を招くでしょ? 早く離し……ッ」


ぶつかるように、痛いキスをされた。まるであたしの口を塞ぎたいように。


何度か啄むようなキスをした後で、バルドはボソッと言葉を出した。


「……婚約だけでは、足りないか?」

「え?……ッ!」


バルドの唇が頬をかすめて、そのままゆっくり下に降りていく。首筋に鋭い痛みを感じて小さく悲鳴を上げれば、バルドがそこを癒すように唇を落とす。


……噛まれた?


意味がわからなくて呆然としていると、バルドが冷然と――笑った。




「翡翠の言う通りに、巫女であるおまえの契約者になってやる。おまえの全てをもらう代わりに、オレの全てをおまえにやろう」


そうして、彼の指はゆっくりと首筋を伝い痛みを緩和するように撫でた。


「だが……愛がないのはお互い様だ」


なぜ、その囁きに胸が締め付けられたんだろう?


いくら考えても、わからなかった。

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