異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「違うっ……やだよ! こんなの……嫌だ! バルド……お願いだから」
あたしがぽろぽろとこぼす涙を、バルドの唇が吸っていく。
「……泣くな」
労るように彼の指があたしの頬を繰り返し撫で、そのまま腕の拘束が解かれる。
そして、バルドはあたしの頬に口づけるとそのまま唇を滑らせた。
まるで恋人にするような思いやりがある仕草に、混乱しながらも彼にどんな顔をしていいかわからなくてギュッと瞼を閉じた。
そして。
バルドがあたしの背中に腕を回し、ギュッと抱きしめてきたのはどうして?
ほつれた髪の毛を手で撫でながら、時折指ですく。バルドとは思えない優しい行動に、これは誰なのかわからなくなる。
甘さを感じるのは、たぶんあたしの都合のいい解釈だ。バルドがあたしを想うなんて、そんな奇跡みたいなこと……起きるはずないもん。
めったにない優しさに、よけいに涙があふれてくる。止まらない滴は、すべてバルドがぬぐってくれる。
何も言わない言えない時間が過ぎた後、コンコン、とドアがノックされた。