異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
《……契約、しなかったのだな》
「……」
たぶん、ヒスイは何もかもお見通しだ。バルドの暴走も、あたしが拒んだことも。
《なぜ、契約しなかったのだ? 巫女としての力を得るのは早い方がよかろう。これから何が起こるか解らぬのだぞ。あやつに心があるならば、抵抗なく受け入れられるものではないか?》
「……そんなはず、ないじゃない!」
あたしは布団から顔を出して声を張り上げた。冷静なヒスイを睨み付けて、涙を流しながら言葉を継ぐ。
「……あなたに、わかりっこない! 愛されてもないのに、身体だけ結ばれるなんて。あたしは……そんなの嫌。虚しいし、寂しいし、自分を大嫌いになる」
《解らぬな。体を繋げばおのずと情も湧くものではないのか?》
「……そんなの、物語の中だけだよ。現実はそうじゃない……そうじゃないんだよ」
涙を拭い否定をしながらも、ヒスイの言葉に少し気持ちがぐらついてた。
ヒスイはあたしより遥かに長く生きてる。その彼女が言ったこと“体を繋げば情も湧く”。それが本当なら、バルドに応えれば……少しでもあたしを見てくれるようになるのかな?なんて。バカな期待をしてしまって。すぐにあり得ないってそんな想いを振り払った。
「現実は、作られたお話みたいにはうまくいかないんだよ。あたしがいくら想ったって……体が結ばれたって、届かないんだから」