異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
《アイカには気をつけよ》
「え?」
ぐだぐだと過ごした後、疲れたと引っ込む前に。ヒスイが唐突にそんなことを言い出した。
「アイカさんに気をつけろって……なんで? だって、彼女は……」
《ひとは、変わる。過去がどうあろうが、大切なのは現在(いま)がどうか、じゃ》
「……そう、かもしれないけど。でも……バルドの好きな人なんだよ?」
最後が弱々しくなったのは、あまり口にしたくなかったから。解りきってはいても、ちょっとだけ優しくされたらよけいに辛くて。
《そなたが信じたい気持ちもわかるがのう。あの女にも同じ大和の血を感じる》
「え、どういうこと?」
《貴族の血筋には違いないが、あやつには大和の血が混じっておる。だがのう……》
目をこすりつつ、ヒスイは大きなあくびをする。
《眠い……わらわは休む、後は頼むぞ》
「ちょ、途中で切らないでよ! 一番気になるところで」
《まだ後でな。調べれば簡単にわかるはずじゃ……》
それだけ話したヒスイは、体が無数の光になってあたしの勾玉に吸い込まれていった。勾玉は数度仄かに光ると、何事もなかったように静かになる。
ヒスイが何気なく放った言葉に、あたしは少なからず動揺してた。
今まで彼女には散々かき回されたけど、その助言にどれだけ助けられてきたかわからない。
それに。
アイカさんに気をつけろと警告してきたのは、ヒスイだけじゃない。ルーン王国のカイル王子からもされてた。
偶然? それともからかわれただけ?
気のせいと思いたいのに、あたしを睨み付けてきた彼女の眼差しが。脳裏に焼き付いて離れなかった。