異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
(え……何これ!?)
気のせいか、紅い霧が彼女にまとわりついてる。庭園では見なかった現象に、魔術か何かと思った。彼女の体調を考えたら、健康のためにかけられたものかもしれない。
それでも、むせかえりそうな濃い花の香りはキツイ。ずっと嗅いでいると、思考が停まって何もかもどうでもよくなりそう。そんな甘美さを感じさせるほど、強い魅力のある薫りだった。
「突然の訪問を失礼いたします。はじめまして、わたくしはアイカ·フォン·ハルバード公爵夫人と申します。
ナゴム様が体調を崩されたとのこと……僭越ではありますが、バルド殿下の友人としてお見舞いに参じさせていただきましたの」
薄いピンク色のドレスを着たアイカさんは、完璧な淑女の礼を取ってあたしに向かい挨拶をした。
どこからどう見ても完全に貴族の令嬢であり、公爵夫人としても不足ない態度だと思う。バルドとはあくまでも“友人”というカテゴリーから外さないそつの無さも、ただのお嬢様には思えない。
「わざわざお見舞いを、ありがとうございます。わたしは秋月 和と申します。バルド殿下からお話はよく存じ上げています」
わざとバルドの名前を出して、牽制をしておいた。今はまだあなたは公爵夫人なのだから、おおっぴらに行動しないでとの意味も込めて。
賢い2人だから、わざわざ自分達の不利になるようなミスはしないと思うけど。万が一のこともある。
アイカさんにバルドを幸せにしてもらうには、今スキャンダルを起こすのは得策じゃない。アイカさんには円満に離婚してもらわないと、バルドと一緒になるのが難しくなるから。