異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



ミス·フレイルが新しい紅茶を淹れてきてくれたから、客間のテーブルにアイカさんの席を設ける。既に席に着いていたセリナとユズに、はにかんだ笑顔を向けた。


「せっかくのお時間をお邪魔しまして申し訳ありません。すぐにお暇いたしますわ」

「構いませんよ。あなたもお客様なのですから、遠慮などなさらないで」


セリナはさすがに王妃らしく、どっしりと落ち着いた物腰で予期せぬ訪問者を受け入れる。ユズも興味津々といったふうで、彼女に挨拶しながらちらっと見てる。


すこし呼吸を乱した彼女が胸の辺りを掴んでさすると、セリナが「体調がお悪いの?」と訊ねる。


「はい。生まれつき体が弱くて……申し訳ありません」

「いいのよ。それなら仕方ないわ。わたくしの典医を呼びましょうか?」

「ありがとうございます。ですが、ずいぶんと良くなりましたわ。セリス王子殿下の治癒魔法のお陰です」

「えっ」


あたしが短く出した驚きの声は、たぶん誰の耳にも届かず消えていった。


「まあ、あの子が治癒を? 珍しいこともあるものね」


表情は見えずとも、セリナの困惑があたしには手にとるように解った。


セリス王子はあたしの足のケガを治してくれた。けど、病気に関して治癒魔法を使うことは、セイレム王国では法律で厳しく制限されてる。いくらお客だとしても、すぐに命の危険がある訳でないひとに治癒魔法を使った? セリス王子が!?


それだけ、アイカさんの体が危なかったってこと?


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