異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「カイル王子殿下は、面白いお方ですの。異国の動物である猿という生き物で芸をしてくださるのです。とても楽しいですから、今度ぜひ皆さんで。わたくしからカイル王子に頼んでおきますわ」
「まあ、それは楽しみだわ」
さすが、セリナ。肝が座っているというか、度胸があるというか。アイカさん相手に何の動揺も見せずに、堂々と渡り合ってる。
「バルド殿下は……」
アイカさんがその名前を出した瞬間、ドキンと心臓が跳ねた。だけど。その話がされる前に、ユズが彼女を遮る。
「申し訳ありませんが、侍女の体調が悪くなったようです。すこし休ませますね」
ユズが体を支えていたのはキキさんで、彼女は真っ青な顔をして全身をブルブルと震わせてる。ユズは近くに控えていたライベルトを見ると、すぐに命じた。
「ライベルト、キキを休ませてやって」
「は?」
ライベルトさんは何を言われたのかわからない、といった顔をしたけど。すぐに反論をした。
「何をおっしゃいますか。わたくしの仕事はあなた様の御身の安全を守ることです。必要なことではありません」
「この、ニブチン」
言った。ユズは確実に、ライベルトさんにそう呟いた。
相変わらず生真面目な軍人から抜け出せないのか、彼は。こりゃキキも苦労するわね。そんなふうに考えてたんだけど。
セリナが何かを言う前に、アイカさんのかん高い声が室内に響いた。
「まあ! 大丈夫ですの? 顔色が大変お悪いですわ。早く休まねばなりませんわ」