異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
アイカさんは急に立ち上がると、急いだようにキキのもとへ駆け寄って――フッと意識を失ったように倒れ込む。それを、近くにいたライベルトが抱き留め支えた。
「大丈夫ですか?」
「も、申し訳ありません……体調不良が常のわたくしですから、他人事には思えませんの」
アイカさんはライベルトの胸元をギュッと握りしめ、潤んだ瞳で彼を見上げる。その瞬間、花のような薫りが濃くなった気がして……。
「ぶえっくしょい!!」
あまりに鼻がくすぐったかったから、思いっきりクシャミが出てしまいましたよ……。
“ここでそんな盛大なくしゃみをするか、あんたは”
セリナの目が半目どころか白目なのは……気のせいじゃないわな。
だけど。
気がつけば不思議なことに、あれだけ濃かった花の薫りがしなくなってた。
そして、キキの体調もあっという間に回復した。一体なんだったんだろう?
よくわからなくて首を捻るあたしに、アイカさんの声が聞こえてきた。
「バルド殿下は、わたくしをとても大切にしてくださいますの。夫とも仲良くしてくださって……ですが。少しだけ情熱が過ぎるお戯れをなさるので。困っておりますわ」
今晩も逢う約束をしておりますの。ライベルトさんの胸に顔を凭れながら、アイカさんがあたしに向けたのは。勝ち誇ったような嘲りの笑み。
それに、いちいち傷つくなと思うのに。あたしの胸はズキンズキンと痛み苦さを噛み締める。
いくらあたしがバルドを想ったところで無駄だって。彼女の笑顔は確実にあたしに現実を知らしめてきた。