異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「ま、噂は食い止められないでしょ。お喋りスズメさん達に格好の話題を提供しちゃったってことだね。こういうゴシップは広まるのも早いから」
「……だよね」
あたしはテーブルの上で頭を抱えた。頭痛が痛い、なんて意味不明な日本語を思い浮かべながら。
その話を出したのが気まずかったのか、ユズはあたしの肩をポンポン叩く。
「ごめん、ごめん。ついつい興味本意で訊いちゃって。そうだよね。当人にすればとんでもないことで触れられたくないよね」
「できれば、皆さん記憶喪失になって頂けないかしら……」
唸りながらどうしようもない現実に、叶わぬ願いを抱く。
忘れていたかったのに! キレイさっぱり記憶から消去して、なかったことにしたかった。
今朝、皆さんがいつにも増してなま暖かい眼差しで見てたのは、噂が広まってたせいかああっ! 知らずに朝食もばくばく食べちゃったよ。もっと女の子らしく少食を演出した方がよかったか?
今朝はどの皇子や王子にも会ってない。別行動な上にプリンス様ご一行はタイトなスケジュールだから、あたしと顔を合わせてない。だから、このままなかったらことにしたかったのに!
「……うう~どうしよう。あたしは一応バルドの婚約者なのに、なんでかなあ? みんな目がおかしかったり、変なものでも食べたり告白ゲームで賭けでもしてるんじゃない?」
どんどん自虐的になっていると、ユズは微妙な苦笑いで肩を叩いてくる。
「そこまで自虐ネタに走らなくていいでしょ。どうせならみんなと同時に付き合ってみたら?」
「できるかい! そんな同時攻略的なこと。一人とも付き合った経験ないのに」
……あかん。灰色の青春を思い出して泣けてきた。