異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「あたしが言えることは、ただ一つだけかな。自分の気持ちに正直になった方が後悔しない……ってね」


はい、とユズはベリー系のベイクドチーズケーキを手もとに置いてくれた。


「素直になるって、難しいけど大切なことだよ。あたしは散々ティオンを焦らしちゃったけど。素直になって自分の気持ちを認めたら、すごく楽になれた」


経験者であり先輩でもあるユズの言葉は説得力がある。彼女は日本にいた頃はあたしと似た境遇で、今はセイレスティア王国の王太子妃になってるけど。それまでは紆余曲折や様々な葛藤があったはず。


素直に……か。


あたしの気持ちは、決まってる。好きになった人はただ一人だけで……けど。彼には大切な人がいて。あたしは彼がその人と幸せになるために協力しようと決めたんだ。


それは、決して変わらない想い。中途半端な気持ちで決意したんじゃないから。


「……素直に、なれたらいいんだけど。ちょっと……あたしには無理かな」

「え、なんで? だって、和は……相思相愛じゃないの? だから、婚約したんじゃあ」

「違うよ」


あたしがキッパリと否定すると、ユズが息を飲む気配がした。


「違う……彼には、好きな人がいるの。それはあたしじゃない。あたしは彼が幸せになって欲しいから、協力するためカモフラージュで婚約者を演じてるだけ。だから、無理だよ。素直になったら、みんなを困らせるだけだから」


じわりと滲む目元を悟られないように、チーズケーキに夢中なふりをしてうつむいた。


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