異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「そっか……」
ユズは多くを言わずに、それだけ呟いてこちらへ体を寄せる。ポンポンと頭を叩くと、あたしの体を軽く抱きしめてくれた。
「……難しいね、本当に。誰かを好きになっても、必ず想いを返してくれるとは限らないから」
「……うん」
下手な慰めもせずにいてくれる。ただただ、そばにいてくれただけ。
それでも、静かに涙を流すあたしには十分で。何も言わずに訊かずにいてくれる彼女に、心の底から感謝をした。
だいぶ涙を流したら気分がすっきりして、ほんの少しだけ気が楽になった。前はあまり泣かなかったのに、このところ涙もろくなったなと苦笑する。
きっと、この苦い初恋は失恋という結末で終わるけど。自分が惨めになる終わり方だけはしたくないな。
今はただ、バルドやみんなが幸せになるために努力をしよう。自分のことは後で考えればいい。自分のための時間は無限に使えるけど、あたしがこの世界にいられる時間は限られているから。そのリミットの間にできることをするんだ。
まずは、とあたしは目の前にいるユズを見た。
「ありがとう、だいぶ落ち着いたよ。それよりは昨夜、お見舞いありがとう。ちょっと思わぬアクシデントがあったけど、大丈夫だった?」
言外に、招かれざる客のことを指しておく。あの時ユズは不快さを表に出さなかったけど、あの女性に関して嫌な想いをしたはずだから。