異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「あの……あのひと、実はバルドが好きな」
「まあ、皆さまお揃いで」


あたしがユズに一番大切なことを伝えようとした瞬間、鈴が振るような声が耳に届いた。ほぼ同時に、あの強い花の薫りが鼻をついて思わず顔をしかめかけた。


立場上無視するわけにもいかないから、仕方なくそちらへ顔を向け笑顔を繕う。庭園のバラのアーチのそばに、白いバラをあしらったドレスを着たアイカさんが佇んでた。


彼女の周りをどこかで見たような男性が取り巻いていて、彼女だけを熱心に眺めてる。中には頬を染めたりする若い男性もいて、見てるだけでうわ……と思った。


「これは、ごきげんよう。ハルバード公爵夫人。今日はよいお天気に恵まれまして。お身体の方はいかがですか?」

「ありがとうございます、ユズ様。お陰でとっても気分がいいんですの。ティオン殿下がこちらの庭園に、素晴らしいバラのアーチがあるとおっしゃいましたから。図々しいかもしれませんが、拝見しに参りましたの」


ユズのとっさの対応は、さすがとしか言い様がない。あたしは日本人特有の愛想笑いを貼り付けるので精一杯です。


それより、とあたしは目を凝らしてアイカさんを見る。


やっぱり……彼女の周りにうっすらと紅い霧がある。それは常に体を包んでいて、どんなに風が吹いても消えない。


彼女を取り巻く連中にも、微かに霧が見えたけど。それは青かったり紫だったり。中には黒いものもあった。一体、あの霧はなんだろう?


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