異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
それと、あたしはアイカさんの牽制に今度も気付いた。
ユズは正しく彼女の名前を呼んだのに、彼女自身はユズを“王太子妃殿下”という公称でなく、単なるユズ“様”と言った。
普通は、どう考えても貴族である公爵夫人より王族の妃――ましてや王太子妃の方が立場も権力も上だ。個人的に会ったならともかく、あたしという第三者がいる前で敬称を抜かすなんてあり得ないというよりも、失礼だし不敬に当たる。
それに。
彼女はティオンバルト王太子殿下を、愛称で。王太子という敬称もなしに呼んだ。彼の名前を公的に呼ぶのを許されてるのは、ユズだけなのに。それに、さもティオンバルト殿下と親しげなんです……な発言。
ましてや、バラのアーチを理由に滞在してるユズの許可もなく庭園に入り込んでくるなんて。あたしのお見舞いの時もそうだったけど、あまりにも図々しいし厚顔無恥もいいところ。好きな人の想い人を悪く言いたくはないけど、あまりにもといえばあまりに酷い態度だ。
「ハルバード公爵夫人。失礼ですが、事前にどなたかの許可をいただいてこちらの庭園にお越しになられましたか?
でなければ、正式な手続きを経てください」
ムカついたままのあたしは、何とか最低限の笑顔を保ちつつアイカさんに問いかけた。
誰も彼もが彼女に甘すぎ。“一応”バルドの婚約者であるあたしは、立場上彼女より上にある。だから、ディアン帝国の(偽の)妃としても。彼女の他国への不遜な態度を見過ごすわけにはいかなかった。