異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。




「ちょ、ちょっと待ってよ! 同じような例が5組目って……アイカさんが原因で、それだけ離婚した夫婦がいたってこと?」


半袖の綿のシャツと体にフィットするズボンを履いたあたしは、汗を拭うタオルを握りしめヒスイを見上げる。ふわふわと浮く彼女は、うむと頷いた。


《貴族が正式に離縁するには審議され、必要性があるか認められねば無理らしいからな。まあ、離縁を言い渡された状態でまだ正式な離縁には至っておらぬが。これで子爵·男爵·伯爵·侯爵·公爵すべての爵位で離縁騒動が持ち上がった。この1週間で集中しておれば、さすがに誰もがおかしいと気づくじゃろう》


「それ……本当なの?ハルト」


あたしは後ろにいるセイレム王国の騎士団副長様を見やる。この1週間、夜の秘密の訓練を仕切ってくれてたのがハルトで。ここ2日は彼自らが相手をしてくれてた。


もちろん、ハルトが許可なく迎賓館に来る訳にはいかないから。こちらが水晶宮殿に赴いて稽古をつけて貰ってる。騎士団専用の訓練所は、深夜なら誰もいない。ロゼッタさんとヒスイに護られながら、お忍びで訓練するには最適だった。


「ああ。おまえだからぶっちゃけるが、騎士団の中にもアイカという女にずいぶん入れ込み部屋へ日参したり、姿を見たいが為に任務を放棄するアホが後を絶たない。規律が乱れている、と団長も憂慮されている」


苦いものを噛み潰したような顔をしながら、ハルトは木刀で肩をトントンと叩く。


「俺も警護の関係であの女を見たが、背筋が冷えた。なんかとりつかれそうで、一目でやべえって判ったんだがな」

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