異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
(バルド……セリナ! どうか無事でいて!!)
ユズはティオンバルト殿下に護られてる。けど、バルドとセリナは……。
セリナは国王陛下とともに、敵に捕らえられた。バルドも応戦しているというけど、絶対に無事だって保証はない。
お城を囲む湖の水面が黒く濁り、暗い炎が広がっている。おそらく、あれが完全に湖を覆ってしまえばセイレム王国の首都は陥落する。
つまり――国が無くなる。
国の、滅亡。言葉にすればいとも容易いけど、それがどれほど大変なことなのか。ぬくぬく生きてた頃には想像すらできなかった。
国がなくなれば、個人の命の安全が、無くなる。
民を護る一番大きな力が国と言うものだから、それがなくなれば当然どんな保証もされなくなる。今ある生活も楽しみにしていることも、全ては国に属して生活と命を護られているから当然のように営めるんだ。
もしも。
もしもあたしが住んでる日本がなくなれば――そんなバカな話だとみんなは一笑に伏すかもしれない。あり得ない、と。
だけど、でも。
今、目の前に起きてる現実は笑い話なんかじゃない。
セイレム王国という300年続いた、人口300万人を擁する国が。消えるかもしれない危機に直面してる。
あたしが、水瀬の巫女であるばかりに。
あたしに、何ができるの?
どうやってみんなを守ればいい? どうやって償えばいいの?
涙をこらえながら、剣を振るう。躊躇ってる場合じゃないのに、どうしても止めを刺せない。
甘い、とハルトに怒鳴られた。一人を逃がせば犠牲者は増えるばかりだと。
わかってる……わかってるのに!
あたしは……
やっぱりばかなままだった。