異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
ものすごい手応えだった。
両足を踏ん張ってなければ、きっと飛ばされてた。
(あれは分隊長の騎士……あたしじゃ……敵わない!)
リデル王子を襲おうとしていたのは、騎士団の100人部隊の分隊長。そんな実力のある相手に、付け焼き刃程度の訓練しかしてないあたしが敵うはずない。
けど……
ぎゅ、っと剣を握りしめる。
今、ここにいる戦える人間――リデル王子を護れるのはあたしだけ。乗り物もないなら、彼を連れて逃げるなんて無理。なら、やるしかない!
「……やあっ!」
地面を思いっきり蹴り、敵の懐へ潜り込む。剣を持つ手は手甲に護られてる。なら、と違う場所を狙った。
あたしに甲冑を貫く力はない。なら、その継ぎ目――その弱点を狙うしか。
大振りの剣を軽くかわし、そのままステップを踏んで間合いを縮める。もう一度剣を交わし、飛び込んだけど。予想外のことが起きた。
「!」
足が――
足が泥に取られて動かない!?
違う。
これは……泥じゃない!
ハッ、と気がつくとすぐそこに白刃が迫ってきてた。
動こうにも、まるで固まったコンクリートみたいにがっちりと固定され、不可能。
やられる――!
思わず目をつぶった瞬間。
暖かいなにかに、体が覆われた。
何かが、斬れる音と。遅れて何かが噴き出す音がして。
すぐに、聞こえたのは――
セリス王子の詠唱の声。
「――滅せよ!」
彼の渾身の力で唱えられた術は、最大の効力で辺りの敵を全て蹴散らした。
そして、彼は微笑む。
「和さん……よかった。わたしは……間に合いましたね。約束通りに……」
「セリス王子、ダメ! しゃべらないで」
背中にどんどんあふれる信じられない量の暖かい液体は――血だ。
なのに、彼は微笑んだ。
微笑んだまま――そのまま力が消えていく。
パタン、と倒れた手は――
二度と、動かなかった。