異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「リデル王子は、私が運びます」
レヤーはよっこいしょ、と翼でリデル王子を背負う。
「私も簡易な治療術を使えますので、出血を止めておきました。後は彼の体力次第ですね」
「なら……治して」
あたしは、ガバッと顔を上げてすぐレヤーにすがりついた。
「お願い! セリス王子も治してよ。まだ間に合うかもしれないじゃない……」
「……和さん」
レヤーもつらいのか、いつもの明るい顔じゃない。
「申し訳ありません……私の力で蘇生は無理です。セリス王子の傷は……心臓を損傷してるので……たとえ今、生きていらしたとしても……」
「できない……の? セリス王子は……もう……本当に……」
「……私が知る限りは、ここの世界でそういった力を持つ方は……いらっしゃいません」
絶望的な宣告がされて、全身から力が抜ける。掴んでいたレヤーの羽毛が指からすり抜けて、地面に崩れ落ちるようにうずくまった。
「ナゴム……」
ロゼッタさんが労るように、あたしの肩に手を置く。けれど、現実は容赦なくあたし達を追い詰めてきた。
ヒュン、と飛んできた武器をロゼッタさんが打ち払う。気がつけば、複数の刺客や操られた騎士に囲まれてる。
それでも、あたしのなかには動こうという意志が消えたままで。ただ、セリス王子のそばで謝りながら泣くしかない。