異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「そうだ、あんたはいつも空っぽだった」

「……!」


バサバサと風に乗って翻る、赤。見慣れた染めの色が、炎と闇の中で何故かひどく鮮やかに見えた。


ザリッ、と彼が踏む度にぬかるむ地面が固まっていく。気のせいか、霧すら彼を避けて漂う。


「あんたに、出来ることは何もない」


あたしの僅かな躊躇いを消すように、彼は残酷な現実を露にしていく。


「平和にぬくぬくと暮らしていた、ただの小娘。甘ったれて感情的に動いて……結局、何もできていない。あんたは、何の価値もない」

「……わかって……わかってる!」


あたしは両手で頭を抱えて、激しく振りながら涙を流した。


「わかってるよ! 自分が、何もできないって……人に迷惑をかけてばかりで……でも!それでもあたしだって……誰かの役に立ちたい。そう思ったんだから!」


ぼろぼろと溢れる涙を拭えずに、ただ地面に着いた手のひらで土を掻いて握りしめた。


「何もできなくても……あたしだって、なにかしたかった! 誰かの役に立って……ありがとうって。それだけでも……誰かのそばにいられる資格が欲しかった!!」


あたしは滲む膜の向こうにいる、見慣れたはずの黒衣の彼を睨み付けた。


「そんなの……あなただって、わかるでしょう。
バルド!!」


バサリ、と翻ったマントの隙間から、彼の黄金色が輝いて見えた。


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